人事経済学を学ぶブログ

人事経済学という研究分野について解説したり,しなかったりします.

人事経済学ってなに?①:人事経済学の定義

ひとことまとめ

  • 人事経済学とは人的資源管理の伝統的なトピックを経済学的に分析する学問.

はじめに

この記事では,人事経済学が何かを説明します.

 

 

人事経済学の定義

人事経済学とは,その名の通り,組織における人事を経済学的に分析する学問です.英語では,personnel economicsと言います.人事経済学の父と呼ばれるエドワード・P・ラジアー(Edward P. Lazear)は,人事経済学を次のように表現しています*1

Personnel economics is the application of economic and mathematical approaches to traditional topics in the study of human resource management.

 (Lazear and Oyer 2010, p.479)

和訳すると,「人事経済学とは,人的資源管理の研究における伝統的なトピックへの経済学的および数理的なアプローチの応用である」という具合になります.人事の実務家ならば,人的資源管理という言葉を聞いたことがあると思います.そこで扱われるようなトピック(例:採用,報酬,配置,離職など)を経済学のフレームワークや数理的な手法によって分析するのが人事経済学,ということです.

経済学の最も基本的な考え方は,人間はインセンティブに基づいて行動する,というものです.ある行動をとることが,ある人に利益をもたらすとき,その人はその行動をとるインセンティブがあると表現します.人々の行動はインセンティブに基づいて決定されていると仮定することで,特定の条件下での人々の行動を理論的に説明したり予測したりすることできます.たとえば,ある人事制度と別の人事制度を比較するとき,それぞれの人事制度のもとで従業員にどのような行動を取るインセンティブがあるかを分析することで,2つの良し悪しを理論的に厳密に比較することができるのです.

その他にもさまざまな経済学的なアプローチが活用されます.主体どうしの関係を戦略的相互依存関係として記述するゲーム理論や意思決定における情報の重要性に注目する情報の経済学などは,組織や人事制度を理論的に分析するために有用な概念を数多く提供しています.また,近年では,経済学のモデルに心理的ないし認知的な要素を取り入れた行動経済学も,職場における人々の行動をうまく説明できるフレームワークとして注目されています.

さらに,それらの理論を現実のデータから定量的に検証する計量経済学も重要なアプローチで,人事経済学における計量経済学は特にインサイダーエコノメトリクス(insider econometrics)とも呼ばれています.近年,研究者らが実際の企業や行政の人事データを利用できるようになるにつれて,人事データを分析した学術論文が数多く発表されるようになりました.人事データ分析によって得られる知見は実用的であることが多く,実務における意思決定のアシストになるため,実務家と研究者のシナジー効果がとりわけ大きい領域であるとも言えるでしょう.

これらの経済学的なアプローチに共通しているのは,分析が厳密であるという点です.経済学では,人々のさまざまな意思決定や行動を数学的なモデルとして記述します.そして,「人々はインセンティブに基づいて行動する」などのもっともらしい仮定をおいて,数学の力を借りながら,厳密にかつ論理的に議論を進めて結論を得ます.そのような方法を取ることで,現実の問題に対して厳密で論理的な解答を提供することができるという強みが経済学にはあります.

 

おわりに

人事経済学の定義を確認しました.人事経済学は,そのままの意味ですが,人事 = 人的資源管理に関する問題を経済学的に分析する学問です.数学の力を借りた厳密な分析が強みです.

 

 

おわり☺︎

 

 

 

参考文献

Lazear, E.P. and Oyer, P., 2009. Personnel Economics. Robert Gibbons and John Roberts. Handbook of Organizational Economics. 

 

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*1:正確には,ラジアーとポール・オイヤー(Paul Oyer)の共著論文の中にある記述です.